あたしを歌ってよ

第二話 引き返せない


あれから数日が経っても。

あたしの頭の中は悠馬くんでいっぱいだった。



大好きな、聴き慣れたラブソングじゃ物足りない。

悠馬くんの、あの歌声を欲している。

推しだと思っていた俳優のドラマを観ても、ときめかなかった。

悠馬くんがいい。



その声で。

あたしを呼んでほしい。

その声で。

あたしを歌ってよ。






大学の食堂で。

南と並んで、中華そばを食べている。



「安いけど美味しいって、最高じゃんね?」



南がハフハフ言いながら、中華そばを食べている。



「うん、美味しい……」
と、一応返事するものの、あたしはどこかうわの空だった。



「でもさー、ねぎがめっちゃ入ってるじゃん?私、ねぎ苦手なんだよねー。でも美味しいし、安いし、我慢できるっていうかー」

「我慢できるよね……」

「?……鞠奈、アンタ、私の話聞いてないでしょ?」
と、南は噴き出して、あたしの隣で大笑いしている。



< 11 / 72 >

この作品をシェア

pagetop