あたしを歌ってよ
今更だけど。
緊張してきた。
(でも、また会える)
そう思うと、心が弾む。
たとえ、これが最後だとしても。
店先で。
入るか、入るまいか悩んでいると。
ひとりの店員が、こちらに向かってくるのがガラス越しに見えた。
(あ、やば)
店内から出てきたのは、悠馬くんだった。
「鞠奈ちゃん?」
「あ、あの、はい」
「なんで?なんでここにいるの?」
(これは……、もしかしなくても、気持ち悪がられてる?)
それはそうだよね?
ちょっと話しただけの女が、なぜか自分のバイト先に現れたら。
(ホラーじゃん)
「ごめんなさい、どうかしてました!」
勢いよく頭を下げて、あたしは帰ろうとした。
そのあたしの手を。
悠馬くんは、掴んだ。
「!?」
手から伝わる、悠馬くんの繊細な熱に。
ほとんどあたし、泣きそうになった。