あたしを歌ってよ
「ん?何が?」
今度はうつむきつつ、
「好きな人とうまくいきそうで、うらやましい」
と、南は言う。
「私、健くんとはうまくいかないかも」
「えっ、なんで!?」
「健くん、今は特定の彼女とかいらないんだって」
南はほとんど半べそ顔で、でも無理矢理笑顔を作った。
「鞠奈はうまくいくといいね」
あたしは、何も言えなかった。
放課後。
大学の最寄り駅である、B駅。
駅のロータリーのベンチに、悠馬くんが座って待っていてくれた。
「悠馬くん」
と、声をかける。
悠馬くんは嬉しそうに、くしゃっとした笑顔になった。
(この笑顔、好き)
「鞠奈ちゃん、もしかして急いで来てくれた?」
「え?うん……、でもなんで?」
「前髪。風でくしゃくしゃ」
「!!」
あたしは恥ずかしくなって、鞄を持っていないほうの手で前髪を押さえた。