あたしを歌ってよ
「ありがとう」
と返事をして、あたしは南のことを考えた。
あれ以来、南は健くんの話をしなくなった。
『ベイビー・サンデー』のライブにだって来ていない。
(『先』を見ているのかな)
健くんの『先』。
(そこに南の、運命の恋があればいいのに)
「ね、先輩が教育実習の時の話をしてくれたけれど、かなり忙しいみたいだよ」
ソフトクリームを食べ終えて、南は鞄からスマートフォンを取り出しながら言う。
「母校の高校、懐かしんでる暇もないって」
「わぁー……、あたし、乗り切れるかな」
不安になってきた。
「鞠奈が乗り切れなかったら、私、本当にやばいから。あはははっ」
「南はねー、授業中に寝過ぎなんだって。起きてたら絶対に優秀な人なのに」
あたしがそう言うと南は、
「起きてたらって言われても、眠いんだよぉ」
と、機嫌良く笑った。
大学の授業が終わって家まで帰る頃、空は薄暗くなっていた。
駅の改札を出た時、
「あの、すみません」
と、肩をポンポンされる。