あたしを歌ってよ
背中に冷たいものが流れていく。
「そのTシャツ……、悠馬のだもんね?」
と、美人な彼女は眉をひそめた。
あぁ、知ってるんだ。
これが、悠馬くんのお気に入りだって。
これを着ているから、わかったってことなんだ?
悠馬くんのそばにいる子が、あたしだって。
「……返して」
美人な彼女は、あたしに近寄ってくる。
「返してよ、悠馬を!悠馬がいないと、私……!!」
「……っ」
逃げ出したい。
それくらい、怖い。
(でも、逃げたくない)
悠馬くんのことで、あたしは逃げたくない。
「私の何と引き換えてもいいからっ、欲しいものは何でもあげるから、だからっ……」
美人な彼女の目には涙がいっぱいに溜まっている。
「だから、悠馬だけは返して……っ、悠馬だけは、私からとらないでっ」
美人な彼女が、あたしにしがみつくように泣き出した。
「何あれ、修羅場?」
「えーっ、こんな所で?」
「マジ場所考えろっつーの」
通りすがりの高校生達の、冷たい言葉が聞こえる。