あたしを歌ってよ
今更ながらふつふつと。
怒りに似た感情がわいてくる。
(じゃあ、最初から放っておいてよ!!なんで声をかけてくるのよ!!なんで、なんで!!)
あの美人な彼女に一番腹が立つことは。
悠馬くんをまるでヒドイ人間だと言わんばかりの、自分だけが被害者だみたいな、そういう態度だった。
(……いい、忘れる)
悠馬くんの美人な元カノのことなんて、忘れたい。
……それに。
あたしだって、悪いところがないとは言えない。
彼女をあんなふうにしたのは、あたしにも責任があるもの。
「でも、悠馬くんは、あたしを選んでくれたんだから」
自分を励ますように、すっかり暗くなった空に向けて呟いた。
部屋に帰って来たら。
電気が点いていたから、
「悠馬くん?帰ってる?」
と、声をかけつつ玄関で靴を脱ぐ。
「おかえり」
玄関からは死角になっているキッチンから、ヒョコッと悠馬くんが顔をのぞかせた。
「あれ?バイトは?」
「それがさー……」