あたしを歌ってよ

「鞠奈?」

「ね、このTシャツね」
と、あたしは自分の心の平和のために話を逸らす。



「南に羨ましがられたよ。可愛いねって」



悠馬くんは「良かったじゃん」と笑って、
「それ、鞠奈にあげよっか」
と、言った。



(え?)



「いいよ、借りるってことで大丈夫だから」
と、あたし。



なんとなく、イヤな予感。



「気に入ったなら鞠奈にあげる。オレには新しいの、あるから」



悠馬くんは私から離れて、部屋に置いてあった紙袋の中から真っ黒のTシャツを取り出した。

胸の所に白い線で、ギターのピックと、その上に寝転がるウサギのイラストが描いてある。



「今日、帰りに買ったんだ。これ、可愛くない?」



満面の笑みであたしに尋ねる悠馬くん。



「でも、これは?もう、いいの?」
と、あたしは自分が借りているTシャツを少し引っ張る。



「うーん、それね」



悠馬くんは迷う様子もなく、こう続けた。



「もう、いらないや。飽きたから」








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