あたしを歌ってよ

ぎゅうっと抱きしめられていると。

不安になっていた自分が、バカみたいに思える。



(何にも不安に思うことなんかないじゃん)



だって。

悠馬くんは。

こんなにもあたしのことを好きだって伝えてくれる。

その目で。

その手で、体温で。



「鞠奈」

「ん?何?」

「オレのこと、見て?」

「うん。見てるよ」



あたしの両頬を包んで。

悠馬くんは、
「何かあったよね?」
と、じっとあたしを見た。



「何もないよ?」



とぼける。

でも。



「何か悩み事?」
と、悠馬くんは引き下がらない。



あたしは少し考えた。

不安だよ。

バカみたいだけど。

やっぱり、不安はあるよ。

不安で、あたし……悠馬くんのこと、信じたいのに、信じきれない時があるよ。



(そんなこと、言えない)




知られたくない。

こんなあたしの、本音。



だから。

代わりにあたしは、
「歌ってくれる?」
と、言った。


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