あたしを歌ってよ
「悠馬ー、電話終わったの?」
健くんが声の主に尋ねる。
あたしはドキドキする心臓をおさえながら、ついに後ろを振り返った。
キリッとした奥二重の目。
形の良い眉毛。
鼻筋はスッと通っていて。
薄い唇が、魅力的。
ちょっと伸びた栗色の髪の毛が、可愛い。
まさしくステージ上で輝いていた、悠馬くんだった。
「鞠奈ちゃん、悠馬のことを見過ぎ!」
と、健くんが笑った。
「あ、ごめんなさい」
思わず顔が赤くなる。
(だって。本当にキレイなんだもん)
「鞠奈ちゃんっていうの?」
と、悠馬くんが言った。
その声で。
あたしの名前を呼んだ。
嬉しくて、全身に何か衝撃的なものが走った気がした。
「澤原 鞠奈です」
「オレは……」
と、悠馬くんが口を動かすと、
「オレ達『ベイビー・サンデー』のボーカル・ギターの、悠馬くんですっ!」
と、金髪に染めた人が横から言う。
「お前、もう酔ってんの?弘樹!」
悠馬くんは笑って、その金髪の弘樹くんの肩を軽く叩いた。
それから私に、
「ごめんな。コイツ、ベースの弘樹。酒に弱いの」
と、言った。
その顔が。
くしゃっと笑っていて。
可愛かった。