あたしを歌ってよ
「ん?何を?」
「歌ってほしいんだ。悠馬くんのその声で、あたしの、あたしだけの、歌」
そう言って、
「やっぱりこんなの、わがままだよね?」
と、おどけるようにぺろっと舌を出した。
「……それは、鞠奈へのラブソングを作ってほしいってこと?」
悠馬くんは慎重に言った。
「……いいの、忘れて」
恥ずかしくなってきて、あたしは両頬に添えられている悠馬くんの手に自分の手を重ねる。
それから悠馬くんの両手ごとスライドさせて、自分の目を隠してみる。
「……何してるんすか、鞠奈さん」
悠馬くんが笑っている。
「恥ずかしいんすよ、悠馬さん」
と答えると、
「何それっ」
と、悠馬くんは大笑いした。
(大丈夫だよね?)
朝方。
隣で眠る悠馬くんの寝顔に向かって、心の中で尋ねる。
(大丈夫、大丈夫だよね?どこにも行かないよね?)