あたしを歌ってよ
「……間違いありませんよ。その人、ここで暮らしていますから」
あたしの声が、思ったより低く、マンションの廊下に響く。
女の子は、
「あはっ」
と、笑った。
は?
「なーんだ、良かった!」
女の子は、あたしに悠馬くんを押し付けるように預けて、
「じゃっ、悠馬さん!私は帰りますからね」
と、悠馬くんに声をかけた。
「では、失礼します」
と、ニコニコする女の子は、振り返ることもなく去って行った。
(何?何だったの?)
酔っている悠馬くんを支えつつ、あたしはその場にへたりこんだ。
静かに。
あたし達の世界に。
薄暗い雲が広がっていくのを感じながら。