あたしを歌ってよ
「……待って、待って」
あたしは慌てて、立ち上がった悠馬くんの脚にもう一度すがった。
「離して、鞠奈」
「やだっ、お願い、一緒にいてっ!あたしとずっと、一緒にいてよ!」
「……」
「なんでもするからっ、言うこと聞くからっ」
悠馬くんは、何も言わない。
パンツのポケットから、鍵を取り出した。
それをそばにあるテーブルの上に置く。
「オレ達が一緒に居ても、鞠奈のためにならないよ」
「やだっ、悠馬くん!」
「ごめんな、鞠奈。こんなふうにさせたの、オレが原因だよな?オレが悪いよな?」
悠馬くんはあたしから離れる。
それから。
「もう、一緒にいるの、やめような」
と、言った。
優しい声で。
……悪魔みたいだ。
こんな時まで。
声も、姿も、キレイなんだから。
あたしはひとり、
「やだっ、行かないで」
と、繰り返していたけれど。
悠馬くんはスマートフォンだけ持って、この部屋から出て行ってしまった。