あたしを歌ってよ
南と別れてあたしは、家に帰るために電車に乗った。
最寄り駅に着いて。
ずっと暮らしているマンションの前まで帰って来たら。
(悠馬くんに会いたい)
と、強く思った。
会ったところで、どうするんだろう。
あたしは、どうしたいんだろう?
(でも、会いたい)
六年間。
ずっと。
連絡できなかったけれど。
(悠馬くんへの気持ちは、変わらなかった)
マンションの中。
あたしの部屋の前に。
もしも。
もしも、悠馬くんが居たら。
(どんなに嬉しいんだろう)
だけど、そんな淡い期待は。
やっぱり叶うわけのない夢みたいなもので。
部屋の前に着いても。
誰もいない。
鍵を探して。
鞄の中をあさる。
見つけた鍵を手に、玄関のドアを開けた。
部屋の中。
あたしはスマートフォンを取り出した。
悠馬くんからの返事を、待っている自分を見つけて。
なんだか悲しかった。