あたしを歌ってよ


悠馬くんの連絡先が変わっていなかったこと。

あたしの歌を歌ってくれたこと。



(……期待してもいいの?)



そう思ってしまう自分は。

あたしの中に確かに存在して。



だけど、冷静な心が言っている。



なぜ、あたしの歌って断定できるの?

あんな別れ方したのに?

六年間、一度も連絡をしていないのに?



望んだ未来はもうないって、わかっているはずなのに?



「あー、ダメだ」



声に出して、暗い考えを追い払う。



「大丈夫、落ち着こう……」



そう呟いた、その時。



ヴヴヴ。



スマートフォンが振動した。

あたしの心臓が飛び跳ねて。

漫画みたいに胸から出て行ったような感覚だった。




だって。

手に取ったスマートフォンの画面には、悠馬くんの名前が表示されているから。


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