あたしを歌ってよ
時間は過ぎて。
健くんと南は、『ベイビー・サンデー』の話をしている。
「『ベビ・サン』はさー、オレが作ったようなもんなんだよー。バンドがやりたい!って思ってさー、悠馬を誘ってさー……」
だんだん自慢話と化している健くんに、南は辛抱強くうなずいている。
「健、そのへんにしとけよ。お前も酔ってきてるぞ」
悠馬くんが南に、
「ごめんね」
と、小さな声で言う。
他の二人に「しっかりしろよ」と声をかけつつ、悠馬くんはあたし達への気配りも忘れない。
(もう、認めよう)
あたしは、悠馬くんが好きになっちゃったんだ。
今夜、初めて見て。
初めて話しただけなんだけど。
(好きにならずにはいられない)
優しくて。
紳士的。
頼もしいし。
何より、カッコいい。
(恋って、こんなに急激に始まるんだな)
過去に恋に落ちた瞬間を思い出そうとしたけれど、それは思い出せなかった。