あたしを歌ってよ
悠馬くんはあたしを抱きしめる腕の力を、少しだけ強くした。
「こんなふうになるってわかってた。鞠奈に会ったら、好きって気持ちがおさえられなくなるって。だから、連絡しなかったんだ」
「……」
悠馬くん。
それ。
その言葉。
「別れの言葉に聞こえないよ?」
「……うん、そうかも」
悠馬くんは笑った。
その笑顔は見たこともないほど、弱々しい、儚い笑顔だった。
(こんな顔するんだ)
あたしの知ってる笑顔は。
悠馬くんのほんの一部にしか過ぎない。
悠馬くんの何を見て。
何を知っているつもりだったんだろう。
「……もう一度、知っていきたい」
あたしは抱きしめたままの、悠馬くんの顔を見上げた。
「え?」
「六年前には戻れないけれど、あたしは今日から、この瞬間から、悠馬くんのことを隣で見ていたいよ」
「鞠奈?」