あたしを歌ってよ
『カクテル・バー レオン』を出て。
時計を見ると、23時になる頃。
健くんと南ちゃんは、ニコニコ笑って「じゃあね」と、ふたりで夜の街に消えて行った。
あたしは帰ろうと思っていたけれど。
「もう少し二人で話そうよ、鞠奈ちゃん」
と、他の誰でもない悠馬くんが言った。
夜の公園。
リンリンと、秋の虫の声。
ベンチに座って、あたしの恋心は、さっきから勝手にどんどん膨らんでいる。
「鞠奈ちゃんって、普段何してる人?」
ベンチの隣。
悠馬くんが、あたしを見ている。
「だ、大学生です。B大学の、2回生。20歳です」
「なんだ、タメじゃん」
「……タメですね」
悠馬くんは「あはっ」と笑って、
「鞠奈ちゃん、緊張してる?」
と、私の顔をのぞきこんだ。
その時。
肩と肩が触れて。
私の体がビクッと震えた。
顔が真っ赤になるのがわかる。
(あぁ、冷静になって。お願い、あたし)
そっと悠馬くんのほうを見た。
触れてしまいそうな距離に。
悠馬くんの唇を見つけた。