秘め事は社長室で
「……どうした?」
「あっ、いえ、」
「何でもありませんよ。社長、十時から会議でしたよね。その前に少しだけいいですか」
私が答えようとしてたんだが!?
被せられた挙句、視界を遮るように社長と私の間に割り込んできた、ムカつくくらい姿勢の良い背中を睨みつける。
だけど二人はあっという間に仕事モードに切り替わり、真剣な顔を突き合わせ始めてしまったから、そんな二人を邪魔するわけにもいかず、私はこっそりため息を吐き出しながら、一度その場を後にした。
新聞はまだ読まないだろうし、お茶だけ用意しよう。
そう考えながら戸棚から茶器を出し、ふと手を止める。頭を過るのは鼻につく男の顔だ。
正直、あんな男のために準備なんかしたくない。だけど同じテーブルに着いてるのに、社長の分だけ用意するのもあからさますぎる。一応、今後社長となるわけだし……。
結局、いつもより一つ多くティーカップを準備した。
社長はすぐに「ありがとう」と微笑んで口をつけてくれたけど、男はちらりと一瞥したのみで何も言わない。
いいですけどね? 飲まれなかったら飲まれなかったで、捨てるだけだし。好感度は更に下がりますけど!
心の中で悪態つきながら社長室を出て、自分の仕事に取り掛かる。
秘書室でメールチェックやスケジュールを確認している内に十時前となり、そろそろ会議に向かわれるかな、と部屋を出ると、丁度社長も出てきたところだった。
「ああ、天音くん。丁度良かった」
「? はい」
なんだろう。首を傾げながら近づくと、柔らかく皺の刻まれた目元がドアの開かれた社長室へと向けられる。
「これから一時間ほど席を外すけど、利人は置いていくから……本社の案内を頼んでもいいかい」
「えっ」