秘め事は社長室で
私はそれに、嬉しいような、悔しいような、ムカつくような、言い知れない感情に苛まれて、ついつい憎まれ口を叩いてしまった。
「別に、無理して飲まなくたっていいんですよ」
言ってから、後悔する。
別に、わざわざ言う必要は無かった。これから同じ空間で仕事をすることが増えるんだから、歩み寄りの姿勢が大事でしょ桃。喧嘩を売らない!
「飲み物に罪は無いだろ」
「……そうですね。すみませ、」
「ただ、次からは要らないから」
吐き捨てるように言われて、しゅんとしていた気持ちがイラつきにころっと変わる。
「……言われなくても!」
誰が! あんたなんかに!
フン! と憤慨しながらも、立ち上がった副社長がそのまま部屋を出ていこうとするので慌てて追いかける。
「副社長、どこへ行かれるんですか?」
「適当に社内を回ってくる。てか、正式にはまだ副社長でも無いから」
こ、細かあ……。確かにそうだけども!
「あの、本社の案内なら私が……」
「いい。敷地図は頭に入ってるし、大体分かってる」
「いえ、でも、ご案内するよう仰せつかっておりますので」
この間も彼は足を止めず、私も小走りで追いかけていたのだけど、そこでようやく長い脚がピタリと止まった。
そして振り向いた黒曜石の瞳に、隠しきれない嫌悪が滲んでいて、ドッと冷や汗が滲む。
「あのさあ、社長に言われたから、お願いされたから、って、それしか言えねえの? もっと臨機応変に動いたり、自分の考えで動いたり出来ないのかよ。学校じゃねえんだぞ」
「あ……」
グサリ。
容赦ない矢が胸に突き刺さって、血しぶきを上げる。
私が何も言えないで居る間に、彼は苛立ったようにため息をついてガリガリと頭を掻いた後、こちらを振り向かずに行ってしまったのだった。