秘め事は社長室で


入口に横付けされていた黒塗りの送迎車まで社長をお見送りした後、またエレベーターに乗って秘書室まで戻る。


「よし」


社長が買ってくれたコーヒーをひと口飲んで、気合を入れなおすように頬を叩いた。
あと少し、キリがいいところまで頑張るぞ!


社長と副社長宛の郵便やメール、連絡は基本的にまず秘書である私の元へ来るようになっている。
そのせいで、各社からの副社長に対するお祝いメッセージ、アポイントメントのお願い、会食のお誘い……その他諸々の連絡が山のように届いて、電子メールがすべて紙だったら、私は今頃メールの海に溺れていると思う。


しかも、就任挨拶のメッセージを、顔写真と共に公式HPに掲載した影響か、それ、業務に関係ある? みたいなグレーなメッセージが送られてくることもあった。副社長宛の郵便物に、よく見たら先方の秘書のプライベートっぽいメールアドレスが書かれてたり、とか。

ああいうの、勝手に余計なものとして弾いていいのか迷うんだよね……。
一応現時点では、気付かないふりをしてそのまま渡しちゃってるけど。

しかし、あの男の何がそんなにいいんだか。


「ただの仏頂面男じゃんねえ」
「──悪かったな、仏頂面男で」


丁度パソコンで開いていた副社長の記事を、頬杖をついて眺めていると、聞こえるはずの無い声が降ってきて心臓が止まる。


ギギギ……と錆びついたロボットのように視線だけを上げると、画面の中よりも更にしかめっ面の、しかし端麗さを失わない華やかな美貌が目に飛び込んできた。


「なっ、なんでここに……!」
「ノックもしたし何回も呼んだ。意図的に無視してるのかと思ったら、急に人の悪口まで言い出す始末だ。喧嘩売ってるのか?」


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