秘め事は社長室で
絶対零度の眼差しを振り翳し続けてくる瞳に、ぶんぶんと首を振る。
「いえ、今のは副社長のことではなく!」
「俺の写真を見てたのに?」
ぐう。さすがに無理がある誤魔化しだったか……。
悪口じゃなくて事実だし……と思いながらもさすがに口を噤んでいれば、何故か机の上の書類を、副社長が片づけるように整え始めたので目を丸くする。
「えっ、いきなり何を……」
「あんたはこれを飲んでろ」
立ち上がろうとした私の手に持たされたのは、社長がくれたコーヒー。すっかり冷めてしまっていて、思っていたより時間が経っていたみたいだ。
副社長がどんどん整えていく資料の中にやりかけのものもあって、ついそれだけ避けようと手を伸ばすと鋭く睨まれる。
そうされるとそれ以上手を伸ばせず、おずおずと手を引っ込めながら大人しくコーヒーに口をつけることにした。
「よし、帰るぞ」
コーヒーを飲み終わる頃、ご丁寧にパソコンのシャットダウンまでしてくれた副社長が、私の手から空になったコップを引き抜いて私を見下ろす。
「あの……」
「飲んだら帰れって、言われたろ」
その言葉に思い起こされるのは、帰り際の社長の優しい声だ。
確かに、これを飲んだら帰りなさいと、そう窘められていたんだった。まさか、副社長にも聞かれていたなんて……。
「そうですね、すみません。あの、副社長は……?」
副社長も、正式に就任してから本格的に忙しくなったようでここ最近は遅くまで残っていることが多かった。
一応、秘書として毎日お声がけはしているのだが、「俺はまだ残るから先に帰っててください」と他人行儀な敬語でにべもなく追い払われる日々だ。