秘め事は社長室で
どうして、対等な立場に立てるなんて思えたんだろう。
「本当のことだとしたら、役員を二人も面倒みられないだろう。父さんも、きちんと実力を把握して、あんたに任せたんだって分かった」
「なん、ですか。急に……」
「俺の言葉を受けて頑張ろうとしてるのに、俺が自分の過ちを誤魔化したままなのは、狡いだろ」
言われっぱなしで終わる私じゃない。怖がって、萎縮して、今までより使い物にならないなんてことにはなりたくなくて、ほとんど意地でここ最近は働いていた。
しかし、デキる女になる! と意気込んだはいいものの、具体的なことは何も決まってなくて。
だから、胸を張って隣に立てるまでは、副社長とは必要以上に関わらないようにしようと考えていた。
でも、そんなところまで、お見通しだったみたいだ。
「……泣くなよ」
不意にそう言われて、彼の長い指が眦に触れて、そこでようやく自分の頬が濡れていることに気がついた。
「ちが……ッ…」
慌てて否定しようとしたけれど、その声がみっともなく震えてたから、言葉ごと息を呑む。
よりにもよって、この男の前で泣くなんて、最悪だ。
どうして涙が止まらないのか、自分でも分からなかった。
悲しいわけじゃない。でも、悔しくて、恥ずかしくて、それから……どこか、ホッとしている自分がいて、そんな自分に腹が立つ。
ずっと目頭が熱くて、でも、都合が悪くなると泣く女だと思われたくなくて、唇を噛みながら俯いていた。
どのくらいそうしていたのか。街灯の明かりが少なくなってきた頃、静かに車が停まった。