秘め事は社長室で
相変わらず無表情な男だ……。ポカンとしながら手の中の袋を見下ろし、呟く。
「あ、豆か」
どうやら副社長は、お茶よりコーヒーがお好きらしい。と知ったのは、ここ最近のことだ。知った、というよりは自己申告されたのだけど。
「まだ前のが一回分残ってるんだよね、っと」
社長用の茶葉を置いてある棚から、円筒を取り出す。
社長のお茶の準備とあわせて、副社長にはコーヒーを準備するのが新たなルーチンとなっていた。
流石に給茶機のコーヒーを出すわけにも行かず、というか、副社長もそれなりに拘りがあるのか、こうして定期的に挽かれた豆を買ってきてくれるのだ。
本来なら飲む時に飲む分だけ挽くのが一番良いらしい、と教えてくれたのは副社長で、でもそこまでの時間が無いのでお店で全部挽いて貰ってるんだとか。
当然ミルがあれば会社でも挽けるけど、私に任せるのは下手そうで嫌らしい。
……って。
「いっつも一言多いのよね!」
確かに挽き目とかよく分からないし、豆なんか買ったこともないですけど?
でもやらなきゃ上手くもならないでしょうよ! ……まあ秘書の仕事では無いからいいんですけどね!
ついイラッとしてしまい手元が覚束なくなりながらも、どうにかコーヒーを淹れ終わった私は、執務室へと向かった。
「失礼します」
ノックを三回。「どうぞ」と返事が聞こえてから扉を開けると、副社長は既にパソコンを開いて執務を始めていた。