秘め事は社長室で
邪魔にならない位置にソーサーとカップを置き、新聞もあわせてセットする。そのまま下がろうとしたところで鴉色の瞳とかち合い、ギクッと身体が強ばった。
え、な、何……?
いつもならこのタイミングで目が合うことは無い。何か気に障るような真似をしただろうかとビクビクしていると、副社長がテーブルの上の書類を叩いた。
「これ、処分しといて」
常に身の回りが整理されている副社長にしては珍しく、乱雑に重ねられた紙や封筒たち。一応全て目を通してくれたのだろう。なるほど、と頷きながら、軽く整えて書類を受け取ろうと持ち上げた時。
「おっと」
ひらり。隙間から名刺サイズの……いや、名刺が落ちてきて、目を丸くする。
え、名刺も捨てるの? それともうっかり混ざっちゃっただけ?
怯えながら拾うと、それは先日来社されたとある取引先の社長の──秘書の、名刺だった。
「なに?」
「え、いや、これも捨てていいのかなあ、と……」
私が小さな長方形の紙を手にしたまま固まっていたからだろう。怪訝そうな声をかけられて、素直に答えると副社長の視線が私の指先をなぞった。
「ああ。それ、裏」
ウラ? 首を傾げながら裏返し、ギョッとする。明らかにプライベートの番号であろう十一桁の数字が手書きで書かれていたのだ。
こ、これは強者(つわもの)だ……。
「でも一応、先方の秘書の番号ですけど……捨てて良いんですよね? あ、裏面のことじゃなくて。表にはきちんと番号の記載があるので」
「俺から直接秘書に掛けることは無い。必要ならあんたが持ってれば?」
「いや、プライベート番号が書かれた名刺を関係ない私が持ち続けるのはちょっと」
なんか、怖いし。