秘め事は社長室で
悩むことなく断れば凛々しい眉が跳ね上がり、眉間に皺が寄る。かと思うと、副社長は疲れを解すように目頭の辺りを揉んで、深いため息を吐き出した。
「ここで優秀な秘書、天音さんに質問です」
「え」
デデン! と効果音が聞こえてきそうな声だった。急に何を始めるつもりなのか。
しかし、手を組んだ副社長の目は、おちゃらけた声をとは裏腹に据わっている。
「役員挨拶に向こうの秘書が着いてくるのは、普通でしょうか?」
「……」
副社長の言いたいことがすぐに分かって、思わず黙ってしまった。そんな私を見上げる黒い瞳は、どこか私を詰るようだ。
「あんまり……無い、ですかね」
少なくとも、私は一度も無い。
副社長が就任されてから、多くの取引先が挨拶に来た。そこに時々若い秘書を帯同されている方もいて、確かに珍しいなあと思ってはいたのだけど。……あと、くる秘書くる秘書、みんな揃って副社長に熱い眼差しを向けていることにも、気づかなかったと言えば嘘になるけど。
「ま、まあ、アポイントを取る時にお世話になるのは秘書ですし、それも見込んでだったのかも」
私が知らないだけで、外出の付き添いが普通な会社もあるのかもしれないし。
だけど、副社長はフン、と鼻を鳴らすと背もたれに体を預けながら足を組んだ。
「そもそも、あんたにだけ挨拶して外で待ってるならまだしも、部屋の中まで入ってきて明らかに度を超えた視線を送ってくる女も、若い女にねだられたからって気軽に連れてくるような男とも、今後付き合ってくつもりは無い」
「……はは」
う〜ん、取り付く島もない。
確かに、秘書を伴って来てた役員はみんな男性だった。
「じゃあまあ、とりあえずこれは処分しときますね」
どの子も可愛かったもんなあ、なんて見当違いなことを考えながら、私は苦笑して執務室を後にした。