秘め事は社長室で
「毎年のことだけどほんっっと、片付けが面倒だわ……!」
ガラガラガラ。
車輪付きのバカでかいホワイトボードを押してホテル内を歩きながらため息をついた。
ホテルの会場を貸し切って、会社から色んな備品を持ち込んで実施するから、片付けもこれまた時間がかかるのだ。
社長……いや、相談役や社長が取引先や株主の対応をしている間、秘書の私はすることが無いからほとんど雑用係である。
「天音さーん! 悪いんだけどそれ終わったら、これ片しといてもらっていいー?」
「はーい!」
事務職は皆お片付けに忙しない。
遠くから飛んできた指示に返事をしながら、私は歩くスピードを早めた。
「えーと、ここかな?」
ホワイトボードを片付けた後、様々な備品が入ったダンボールを抱えて、私は人気のない廊下の隅に来ていた。
この備品たちはホテル側に借りたものだそうで、戻してきて欲しいと頼まれたのだ。
備品室、と書かれたプレートを見つけ、ドアノブに手を伸ばす。──と、そこで、耳に粘つくような厭らしい声が聞こえてきて、手を止めた。
「いやあ、しかし本当に大丈夫なのかねえ」
「……ああ、利人くんか」
聞こえてきた名前に振り向く。どうやら声は、向かいの喫煙室から漏れているようだった。
こっそり中を覗くと、うちの役員が数名談笑していた。それぞれが浮かべるどこか下卑た笑いに、無意識のうちに眉間に皺が寄ってしまう。
「三十路にも満たない子供を社長に据えるなんて……いくら我が子が可愛いとはいえ、ねえ」