秘め事は社長室で


「そんな狭量な心しか持ってないから、上にいけないのよ」


むしろ役員になれてるだけ有難く思いなさいよ。

誰にも聞こえないくらい小さな声で悪態つきながら、やや乱暴な手つきで備品を片していく。
ガタガタと煩かったかもしれないが知ったことか。少しくらい気まずい思いしたらいいのよ。そう思った。けど。


「……ッ、」
「ん?」


備品室から出た瞬間、向こうも喫煙室から出てきたようで思い切り鉢合わせてしまった。

ウゲ、と声に出しそうになりながら目を見開く。
相手も人がいたことに多少驚いていたみたいだけど、それだけだった。気まずさなんて微塵も感じていない。なんなら、聞こえてたかもしれない、なんて考えは少しも持っていなさそうだった。

そして、後からでてきた役員が、どこか値踏みでもするような眼差しで私の頭からつま先を眺める。ぞわ、と鳥肌が立つような視線に、思わず目を逸らした。


「君は……」
「お疲れ様です」


一刻も早くその場から立ち去りたくて、笑顔で挨拶して何かを言いかけた声に被せる。しかし、まるで私の進路を妨げるかのように前に立ったまま動かないから、すり抜けるにも抜けられなくて、内心で舌打ちした。


「あの、」
「君はこの後も、引き続き社長の専属秘書を務めるのかな」
「は?」


唐突にぶつけられた問いに、思わず不躾な声が出る。
ハッとして引き攣った微笑みを浮かべながら、小首を傾げて見せた。


「はい。それが何か?」


言葉に棘が混ざってしまうのは許して欲しい。相手、全然気付いてないみたいだし。

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