秘め事は社長室で


「君と社長は、あまり歳が変わらなそうに見えるから」
「……から、何でしょう」
「若くて慣れてない二人で、果たして上手くやって行けるのかね?」


こ、こいつ面と向かって嫌味を……!

あまりのことに唖然としながらも、腹の奥ではグツグツと怒りが煮え立っていく。
ギュッと拳を握って怒りに震える私に気付かない男は、たるんだ顎を擦りながら、私を見下ろした。


「どうかね。私から相談役に言って、私の秘書と交換することも──」
「お気遣い、ありがとうございます」


最後の方の言葉はもう、聞こえてなかった。
苛立ちに震える声を絞り出して、キッ! と相手を睨みつける。


「ですが、一つだけ訂正させてください。確かに私はまだまだ頼りなく、経験不足かもしれませんが、社長は違います。私のサポートなんて本当は少しも要らないくらい、完璧で、努力家で、この会社を担うに相応しいお方です」


少なくとも、あんたよりはね!!

最後の言葉は心の中で吐き捨てたものの、反抗的な私の視線に何かを感じとったのだろう。意表を突かれたように丸まっていた目が、みるみるうちに不機嫌な色で満たされた。


「ふん。まあ君みたいな若い女の子は、傍にいれるだけで役得か? 顔だけはいいと評判だものな。彼は」
「なっ……!」
「はぁ、やめてくれよ? 会社で不純な問題を起こすのは。やっぱり、揉め事が起こる前に引き離した方がいいんじゃないか。なあ?」


ニタニタと笑いながらもう一人に同意を求める男に、身体中に熱が走る。

信じられない。セクハラじゃない。
悔しい。こんな男に、言い返せないのが。
悔しい。こんな男が、義人さんの大切な会社に、我が物顔で居座ってるのが。


「──天音さん」

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