秘め事は社長室で
どうしてもこのまま引き下がるのは嫌で、義人さんや社長の立場が悪くならない程度に何か反論できないか。そう俯いて考えを巡らせていると、爽涼な声が思考を晴らした。
ハッと顔を上げると同時、目の前の男二人もギョッとしたように後ろを振り返る。
「しゃ、社長」
私の声に、社長は役員二人に目も向けず私の前まで来ると、凪いだ瞳に私を映した。
「そろそろ帰社します。車の準備をお願いできますか」
「あ、はい!」
社長は、他の人の前だと敬語を崩さない。
まだ少し慣れないものの、助かった〜、と既に背中を向けている社長の後を追いかけようと足を踏み出す。
と、未だに居心地悪そうな二人の横を通り過ぎようとしたところで、綺麗に磨かれた革靴がピタリと止まった。
「ああ、そうだ」
無感動な瞳が、背の低い男二人を見下ろす。瞳の奥に、微かな、けれど確かな侮蔑の色を灯して。
「彼女に対しての先程の発言は、今回は聞き流します。ただ、私や父は、彼女を一人の社員として、秘書として、認めています。彼女に対する冒涜は、私や父に対する冒涜でもあると、そう心得て下さいね」
ではまた会社で。そう口元だけで微笑んで、また歩き始める。
二人は呆気に取られていて、私も口を間抜けに開けながら呆然としていたのだけど、社長はどんどん歩いていってしまうから、慌てて隣に並んだ。
「あの、相談役は」
「相談役はもう少し話すことがあるから、後から一人で戻ると。あんたのことも、先に戻って構わないと言っていた」
あ、もう口調が戻ってる。
私は彼の言葉に頷いて、すぐに車の手配をした。