秘め事は社長室で
「社長、さっきはありがとうこざいました」
二人、後部座席に座りながら会社を目指す。
社長は頬杖をつきながら窓の外を眺めていて、私はずっと自分の膝に目を落としていたのだけど、思い切って話を切り出した。
ちら、と社長の視線がこちらに向いたのを感じて、そのまま話しを続ける。
「私があれ以上言い返すと、ややこしい事になりそうだったので……」
「別に、あんたのために言い返したわけじゃない。ほっとくと、あることないこと噂されそうで、面倒だろ」
確かに……。
「どこから聞いてたんですか?」
尋ねると、社長がじっと私を見つめ、やがて薄い唇が意地悪に歪んだ。
「あんたがカッコよく啖呵切ってるところから」
「え゛っ」
は、恥ずかし!!
しかもその、私をからかうような顔がムカつく!
「でも、そこから聞いてたならご自分のことも言い返せば良かったじゃないですか」
「は?」
「顔だけ男って言われてましたよ」
告げ口すると、社長が眉を顰めて嫌そうな顔をする。「そこまでハッキリ言ってたか?」なんて呟きが聞こえたが知るもんか。ほぼ同じようなこと言ってたし。
「まあ、俺はいいんだよ」
ふう。──ため息とともに深く背もたれに体を預けた社長。
きょとん、と横を見上げると、鋭く冷静な、くっきりとした瞳が真っ直ぐに前を向いていた。
「仕事で見返すから」
まるでそうなることが確定しているかのような、揺らぎのない声だった。
だけど不思議と、それを絵空事だとは思わない。
きっとこの人ならその通りに成すだろう。
ただ、それだけの予感があった。