秘め事は社長室で
3
コツコツコツコツ……。
街灯に照らされた薄暗い夜道、周りには誰も居らず、響くのは私一人の足音だ。……そのはずだ。
「……」
コツコツ……、ピタリ。
足を止めて、振り返る。勿論、誰もいないし、何も聞こえない。でも。
「……っ、」
私は息を詰めて前に向き直り、ふーーー、と細く長い息を吐き出してから、グッと脚に力を込め、そして……ダッシュ!
この時のために敢えて選んでいるパンツスタイルをフルに生かし、必死の形相で駆け抜けた。
「っ、はあ、はあ……」
自宅アパートまで約百数十メートル。たったそれだけの距離でもヘトヘトで、チェーンまでしっかりと掛けた冷たいドアに寄りかかりながら、自分の運動不足を嘆いた。
「はあ……なんだかなあ」
走ったせいで暑い。熱気を逃がすようにシャツのボタンを外し、靴を脱ぎ捨て、脱衣所に直行する。
パチン。電気をつけて、三面鏡に映った自分の顔色の酷さに、苦笑いするしか無かった。
最近、誰かに尾けられている気がする。
実際に人の影を見たわけでは無いし、自意識過剰かもしれないけど、じっとりとした嫌な視線を感じる機会が増えていた。
「はあ……」
いつからだったか、はっきりとは思い出せない。
だけどここ最近は、朝や夜、通勤する時間や退勤する時間をずらしてみても、毎日のように視線を感じている。
心当たりなんてものは全く無くて、実害があったわけでも無いから、警察に相談するのもなんだか気が引けた。