秘め事は社長室で
リリリリリ、リリリリリ……一定間隔で鳴り続ける音は、若干の不快感を含んでいる。私を夢の世界から引きずり下ろすアラーム音だ。
「んん……」
思わず、むずがるような声が出てしまう。
だけどどうにか指先を動かし、私を起こそうと鳴り続けるスマホを手に取る。
画面を見ないまま音を止め、顔を上げたところで、驚きすぎて椅子からひっくり返りそうになった。
「しゃ、社長!?」
「おはよう」
なぜならそこに、優雅に珈琲を飲む社長の姿があったから。
来客用のテーブルで、経済新聞に目を通しながら当たり前の顔をして寛いでいる。
「な、なんでここに」
一体いつから居たのか。目を白黒させていると、社長の目が新聞から離れ、私を射抜いた。
「あんた、昼飯は」
「え」
「なにか食ったのかって聞いてる」
「えーー……っとぉ」
目を泳がせると、社長が無言で立ち上がりこちらまで歩いてくる。かと思うと、コンビニのロゴが入った袋を目の前に置いてきた。
「えっと……これは?」
戸惑いながら中を覗けば、おにぎりやサンドイッチ、ゼリーやお菓子など、空腹を刺激する光景が広がっている。
くう、と釣られるようにお腹がなってしまい、社長が眉根を寄せた。
「少しでもいいから食べろ」
「えっ」
「それとも、何も食えないほど食欲がないか? それなら今からあんたを病院にぶち込むだけだが」
チャリ、とスラックスのポケットから取り出したのは車のキーだ。これは本気だ。そう察し、私はぶんぶんと首を横に振った。
「た、食べます! ありがとうございます」
どうして急に買ってきてくれたのかは謎だけど……。