秘め事は社長室で
でもありがたい。あとで食べられそうなら。そう思い、袋ごと鞄にしまおうと持ち上げたところで、ガシッと手首を掴まれた。
「ひえ」
「今食え。社長命令」
どんな命令だ。
まあでも、そこまで言ってくれるなら……。首を傾げながらも頷くと手は離れ、私は恐る恐るおにぎりを手に取る。
その間も社長が私から目を離さないものだから、なんだか妙に緊張してしまって、うまくフィルムが剥がせなかった。
「あ、あの、そんなに見られてると食べにくいんですが」
「……」
「無視……」
まあいいか。
いつもよりはちょっと控えめに。おにぎりに齧り付き、もぐもぐと咀嚼していると、社長が口を開いた。
「あんた、最近昼飯食べてないだろ」
「えっ」
「体調悪そうな顔してるくせに、そんな時こそしっかり栄養は摂れ」
まさか、それでわざわざ買ってきてくれたの?
つい口を開けて呆けてしまい、社長が不機嫌そうに目を細める。
「なんだ」
「いや……お母さんみたいなこと言うなって」
ちょっと素直に言いすぎた。そう思うものの口から出た言葉は取り消せず、社長は苦虫を噛み潰したような顔になると、広げていた新聞やコーヒーカップを片し始めた。
そして、それらを小脇に抱えると、スタスタと扉へと向かう。
「俺はもう戻る」
「あ! あの、ほんとにありがとうございました、これ!」
そのまま出ていってしまいそうな社長に、慌ててもう一度お礼を言うと、社長はちらりと私を一瞥し、今度こそ部屋から出ていってしまった。
やっぱり食事は重要だ。そんな当たり前のことを実感する夜。
お昼をきちんと食べたからか、午後はここ最近で一番頭が冴えていた。