秘め事は社長室で
冴え渡るような青空とは裏腹に、重苦しいため息を吐きながらルーティンをこなす。
水替えをしようと花瓶を手にしたと同時、後ろで扉が開く音がした。
あれ? 社長、いつもより早いな。
そう思いながら笑顔で振り返ろうとして、中途半端な姿勢で固まる。
「……」
「……」
「……ふ、副社長」
なんと、入ってきたのはあのいけ好かない次男坊、その人だった。
なんで何も言わず我が物顔で社長室に? まさかもう社長の座に就いたつもり? 笑止! この部屋の主はまだ義人社長ぞ!
心の中でメラメラと意味もなく対抗心を燃やしながら、相変わらず無感動な射干玉の瞳を見る。私が驚いて目を丸くしている間も、微塵も動じず真顔だった。
「……おはようございます。昨日は、」
「あのさ」
全く悪いと思ってはいないけど、一応は昨日の態度を謝った方がいいんだろうか。
悩みながらひとまず挨拶をし、話題を切り出そうとしたところでぴしゃりと言葉を重ねられる。
まだ私が話してたんですけど~? とイラっとしながらも、どうにか表情に出さないよう押し留めながら見上げると、留めたそばから煽ってくるようなあの腹の立つ視線とかち合った。
……やっぱりムカつく、その目。
反省に向かっていた思考はどこへやら、いつか他人へ向ける視線について一言物申してやろうと意気込んでいると、花のような唇が薄く開く。そして。
「俺、秘書とか要らないから。余計な事するなよ」
淡々と告げられた言葉に、昨日は申し訳なかったな、とか、相手は次期社長だしな、とか、そんな考えは木っ端微塵に粉砕されてしまった。
腹の底で煮えたぎるのは、昨日よりも深く、熱い怒り。