密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
穴があったら入りたい思いで君塚先生に背中を向け、いそいそと服を着る。

「熱いから気をつけて」
「は、はいっ。ありがとうございます」

着終わると君塚先生から淹れたてのコーヒーを手渡され、一口飲んだ。
香ばしい温かさに、ドキドキと忙しない心臓が幾分落ち着いてきたかと思えたときだった。

「俺たち、結婚しないか?」

ベッドに腰掛ける私の隣に座り、君塚先生が私の顔を覗き込む。

「……へ?」

気の抜けた声が出た。というか、ほとんど口から空気を吐いただけだった。

朝の気まずい空気が一転する。

結婚?今、結婚って言ったよね?

聞き間違いかと訝る私の目を真っ直ぐに見て、君塚先生は再度口を開いた。

「契約結婚だ。期間は三ヶ月でいい」
「け、契約……?」

起き抜けであるうえに、到底理解しがたい言葉に頭がついていかない。

「今まで傷ついた分、夫婦になって俺に甘えてみないか」

驚きで目を見開き、間抜けなほど口をぽかんと開ける。

「きみは三ヶ月の間に仕事を探すんだ。もちろん生活費は出すし、相続登記の手数料十万円もタダにする。今後もしもきみに弁護士が必要になれば、その費用もすべて無料」

叩き売りみたいに言ってるけど、それって全部私のため?
君塚先生は祖父母に恩があると話していた。それを返すために私と結婚を?

『責任は取る』

あの言葉の意味は、結婚ってこと……?

わけがわからない。
頭の中で疑問がごちゃごちゃに絡み合う。

「え、ええっと……。君塚先生は、結婚したいのですか?」

声が喉に突っかかり、うまく出せないくらい動揺している私は、手にしたコーヒーカップを潰れるほど強く握りしめた。
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