密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
「石橋春香です。こちらこそよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると座るよう促されたので、私はソファに腰を下ろした。
向かい側に座った君塚先生の背後は一面ガラス張りで、都会のビル群が一望できる。
「今日のご相談内容は、相続登記の手続きについてですね」
「はい」
私はこくりとうなずいた。
三ヶ月前、父方の祖母が心臓発作で亡くなり、ほかに身寄りがいない私は祖父母が遺した古い店舗兼一軒家を相続することになった。
両親は中学生の頃に車の事故で他界。祖父は病気で八年前に帰らぬ人となり、それから祖母とふたりきり身を寄せ合って生きてきたから、未だ失意に陥っている。
祖母は青空商店街で『石橋仕出し店』という小さな弁当屋をやっていた。近所の人が毎日買いに来てくれて、わりと繁盛していたと思う。
その日一日で売れる量の材料を仕入れ、季節によって内容を変えたメニューが売りだった。夏の暑い日は大葉と梅のささみ揚げ、寒い冬の日はコーン入りのクリームコロッケ、といったふうに。
どの惣菜も、とても美味しかった。特に唐揚げが人気で、唐揚げ弁当は飛ぶように売れたっけ。
また食べたいな……。
「相続登記はご自分でもできますけど、専門的な知識が必要ですから我々法律家に任せていただいた方がよいかと思います。その場合はまず、こちらの必要書類を揃えていただきます。書類が揃いましたらご連絡ください」
必要書類が記された紙をこちらに差し出した君塚先生は、そう話すようプログラミングされたロボットさながら、一字一句よどみなく話した。
「はい、わかりました」
「ほかに相談はありますか?」
君塚先生に問われ、弁護士に相談するチャンスなんて滅多にないから、最近身に降りかかった件の話だけでも聞いてもらうべきかとも思った。
けれども受付にいた女性がちょうどお茶を持って来てくれて、すっかりタイミングを逸した私は言葉を飲み込む。
ぺこりと頭を下げると座るよう促されたので、私はソファに腰を下ろした。
向かい側に座った君塚先生の背後は一面ガラス張りで、都会のビル群が一望できる。
「今日のご相談内容は、相続登記の手続きについてですね」
「はい」
私はこくりとうなずいた。
三ヶ月前、父方の祖母が心臓発作で亡くなり、ほかに身寄りがいない私は祖父母が遺した古い店舗兼一軒家を相続することになった。
両親は中学生の頃に車の事故で他界。祖父は病気で八年前に帰らぬ人となり、それから祖母とふたりきり身を寄せ合って生きてきたから、未だ失意に陥っている。
祖母は青空商店街で『石橋仕出し店』という小さな弁当屋をやっていた。近所の人が毎日買いに来てくれて、わりと繁盛していたと思う。
その日一日で売れる量の材料を仕入れ、季節によって内容を変えたメニューが売りだった。夏の暑い日は大葉と梅のささみ揚げ、寒い冬の日はコーン入りのクリームコロッケ、といったふうに。
どの惣菜も、とても美味しかった。特に唐揚げが人気で、唐揚げ弁当は飛ぶように売れたっけ。
また食べたいな……。
「相続登記はご自分でもできますけど、専門的な知識が必要ですから我々法律家に任せていただいた方がよいかと思います。その場合はまず、こちらの必要書類を揃えていただきます。書類が揃いましたらご連絡ください」
必要書類が記された紙をこちらに差し出した君塚先生は、そう話すようプログラミングされたロボットさながら、一字一句よどみなく話した。
「はい、わかりました」
「ほかに相談はありますか?」
君塚先生に問われ、弁護士に相談するチャンスなんて滅多にないから、最近身に降りかかった件の話だけでも聞いてもらうべきかとも思った。
けれども受付にいた女性がちょうどお茶を持って来てくれて、すっかりタイミングを逸した私は言葉を飲み込む。