密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
「あ。せっかくだから飲んでみようかな」

気を取り直し、冷蔵庫で冷やしていたシードルの瓶を持ってくる。
駒津屋のおじちゃんが、お酒があまり得意じゃなくても飲みやすいと言っていたので、期待が膨らんだ。

グラスに注ぐ前になにげなくラベルを見た。

――妊娠中や授乳期の飲酒は胎児・乳児の発育に影響する恐れがありますので気をつけましょう。――という注意書きが目に入る。

普段はまったく気にならないのに、どうしてか今日はしっかり読まないと気が済まない気分だった。
蓋を開栓しようとした私は、ピタリと動きを止める。

「そういえば……きてない?」

独り言をつぶやき、瓶をテーブルの上に置くとスマホのスケジュールアプリを開く。

生理前にお腹が痛くなることがよくあり、同じような痛みが数回続いていた。だからそろそろ来る頃かなと思った日から、すでに数日が経っている。
スケジュールアプリは毎月記録しているから、忙しくて忘れたなんてことはないと思う。

最後の生理は、透真さんと暮らしていた頃だった。

『きみがかわいすぎるから早く俺のものにしたくて、気持ちを抑えられないんだ』

不意に耳のすぐそばでささやかれたかのように錯覚し、背中がゾクリと粟立つ。
あの夜、朝になるまで何度も求めた。きちんと避妊していたか正直記憶がない。

「まさか、ね……」

きっと疲れていて生理不順になっているだけだろうと自分を納得させつつも気になって、私は翌日ドラッグストアで妊娠検査薬を購入した。

最近熱っぽいことや、偏頭痛がひどくなっているなど、私の現状がネットで調べた妊娠の初期症状に当てはまる部分が多かったからだ。

仕事から帰宅して家のトイレで試してみる。
ドキドキしながら結果を待つと、うっすらと浮かび上がってきた青い線が、くっきり濃厚になった。
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