密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
「これって、妊娠してるってこと?」

使用する前にも調べたのに再度、取扱説明書を確認する。
手が震え、動転していた。

私、妊娠したんだ……。

「嘘、信じられない……」

けれども、妊娠検査薬の精度は九十九パーセント。それに、ここ数日の体調不良も合点がいく。

取扱説明書を胸にあて握りしめ、私は両目をギュッと強くつむった。

お腹の中に、私と透真さんの赤ちゃんがいるなんて。

……どうしよう……。

布団の中に入っても、まるで全身が脈打つように一晩中ドキドキしていた。
眠れそうな気配がないのでシフト表を開き、次の休みの日を確認する。
翌日、近所の産婦人科クリニックに電話をし、予約を取ることができた。

受診日までの数日間で、日常的に吐き気を催すようになった。
立ち仕事はキツいけれど、コーヒーの香りは苦手と感じなかったので、なんとか一日を乗り越えられた。

そしていよいよ初診の日。
私は受付で渡された問診票に記入する。既往歴や最終月経開始日など思い出しながらペンを進め、迷いながらも、既婚の方に丸をつけた。

尿検査をしてから診察室に呼ばれ、先生に問診を受けて内診台に座る。
緊張で、太ももが震えていた。

「君塚さん、横のモニター見えますか? 黒い袋があるでしょう」

カーテン越しに先生の声が聞こえ、私は顔をグイッとモニターに向ける。

「は、はい」

たしかに小さな黒い丸が確認できる。
私は何度も瞬きをして、モニターの近くに顔を寄せてじっくりと見た。

「これが胎嚢ですよ。おめでとうございます」

医師の言葉に、体の力が抜ける。

ここに来るまで、今この瞬間も不安な気持ちが大きいけれど、なんだか胸のすく思いだった。

「このままうちのクリニックに通うのであれば、次回の診察は三週間後になります。予約されますか?」
「お、お願いします」

私はふわふわと夢の中にいるような感覚で、放心状態でうなずいた。
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