密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
妊娠五週目。
会計と次回の予約をしてクリニックを出ると、透真さんになんと報告しようかという現実的な問題へと頭が切り替わる。
離婚するのに妊娠だなんて知れば、透真さんは戸惑うだろう。喜んでくれるとは思えない。
抱かれたときの滑らかな手指の動きはとても優しく、私を見つめる眼差しははちみつのように甘やかだったけれど、私への気持ちは大学時代に胃袋を満たしてくれた祖父母への感謝や、同情といったところだろう。
きっと困らせてしまう。
お腹の子どもを認知すると言ってくれたとしても、それは責任感からだ。
いっそ話さずに、ひとりで産んだ方がいいのではないだろうか。
極端な発想だとわかっている。
だけど、哀れみや同情だけで一緒にいるのは辛いから、知らせずに生きていくべきなのではないかと思えた。
「どうしたらいいんだろ……」
ため息とともに独り言をつぶやく。
夕暮れ時の帰宅中、青空商店街をうつむきがちに歩いていると、正面でこちらに向かって大きく手を振っている人物が見えた。
「春香ちゃーん!」
叫んだのは、駒津屋のおじちゃんだった。私はそちらに歩み寄る。
「おじちゃん、こんばんは」
挨拶して何気なく店内を見た私は、驚いて息を止めた。
頭の中があまりにも彼でいっぱいだったから、幻想が見えたのかと一瞬本気で思った。
「春香」
およそ三週間ぶりに会った透真さんは、穏やかな声で私の名前を呼んだ。
たった三週間会わなかっただけなのにもう懐かしくて、目にじんわりと涙が滲む。
「と、透真さん……」
名前を口にするだけで感傷的になってしまう。
仕事が早く終わったのか、透真さんはスーツ姿だった。相変わらずの比類のない美しい顔立ちと、凛とした華のあるスタイルにため息が出るほど。
「春香ちゃん、どうだった? こないだのシードル」
私たちの間にある目に見えない隔たりの存在を知らない駒津屋のおじちゃんは、ニコニコ顔で言った。
「今旦那さんにもオススメしてたんだよ」
「あ、ええと……」
私は目線を下げ、口ごもらせる。
あのシードルは、結局飲まずに冷蔵庫に入れたまま。
会計と次回の予約をしてクリニックを出ると、透真さんになんと報告しようかという現実的な問題へと頭が切り替わる。
離婚するのに妊娠だなんて知れば、透真さんは戸惑うだろう。喜んでくれるとは思えない。
抱かれたときの滑らかな手指の動きはとても優しく、私を見つめる眼差しははちみつのように甘やかだったけれど、私への気持ちは大学時代に胃袋を満たしてくれた祖父母への感謝や、同情といったところだろう。
きっと困らせてしまう。
お腹の子どもを認知すると言ってくれたとしても、それは責任感からだ。
いっそ話さずに、ひとりで産んだ方がいいのではないだろうか。
極端な発想だとわかっている。
だけど、哀れみや同情だけで一緒にいるのは辛いから、知らせずに生きていくべきなのではないかと思えた。
「どうしたらいいんだろ……」
ため息とともに独り言をつぶやく。
夕暮れ時の帰宅中、青空商店街をうつむきがちに歩いていると、正面でこちらに向かって大きく手を振っている人物が見えた。
「春香ちゃーん!」
叫んだのは、駒津屋のおじちゃんだった。私はそちらに歩み寄る。
「おじちゃん、こんばんは」
挨拶して何気なく店内を見た私は、驚いて息を止めた。
頭の中があまりにも彼でいっぱいだったから、幻想が見えたのかと一瞬本気で思った。
「春香」
およそ三週間ぶりに会った透真さんは、穏やかな声で私の名前を呼んだ。
たった三週間会わなかっただけなのにもう懐かしくて、目にじんわりと涙が滲む。
「と、透真さん……」
名前を口にするだけで感傷的になってしまう。
仕事が早く終わったのか、透真さんはスーツ姿だった。相変わらずの比類のない美しい顔立ちと、凛とした華のあるスタイルにため息が出るほど。
「春香ちゃん、どうだった? こないだのシードル」
私たちの間にある目に見えない隔たりの存在を知らない駒津屋のおじちゃんは、ニコニコ顔で言った。
「今旦那さんにもオススメしてたんだよ」
「あ、ええと……」
私は目線を下げ、口ごもらせる。
あのシードルは、結局飲まずに冷蔵庫に入れたまま。