密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
その日の夜のうちに必要な荷物を透真さんのマンションに運び、私たちは再び同居することになった。
たった三週間で舞い戻った部屋で、ゆっくりと一晩休ませてもらった。

翌日、私は朝からバイトが入っている。
キッチンで透真さんにはスペシャルブレンドを、自分用にはカフェオレ用に購入していたノンカフェインのコーヒーを淹れた。

「熱いのでお気をつけてくださいね」

ダイニングテーブルの椅子に座る透真さんに、コーヒーカップを手渡す。

「ありがとう、いただくよ」

透真さんはコーヒーカップを口もとで傾けた。

三つ揃えのスーツはオーダーメイドだろうか。体のラインが美しく見えるスラックスとベスト姿に見惚れてしまう。嘆息するほどカッコいい。

ただコーヒーを飲む日常的な動作なのに、まるで高貴な美術品を見ているかのような気分になった。

こんなに素敵な人が、昨日私に『愛してる』と言ってくれたんだよね。まだ夢を見ているみたい……。

「ところで、バイトは休めないのか?」

飲み干した透真さんは、椅子からすっくと立ち上がった。
バイトは昨日、今後三週間分のシフト表が出来上がったばかり。

「ほかに出勤してくだる方を見つければ休めますけど……」

きっと透真さんは昨日の私を見て、きちんと働けるのか心配してくれているのだろう。
その気持ちはうれしいけれど、病院では無理のない程度に働くのは問題ないと言われている。

「きちんと水分を取れば、おそらく大丈夫かと思います」

熱いカフェオレを一口啜る。

妊娠のこと、早めに店長に報告しよう。
採用してもらってすぐに妊娠の話をされるのは向こうも困惑するだろうけれど、避けては通れない。
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