密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
「本当は謝罪くらいでは済まないところですが、こちらとしては金輪際関わることさえ不快です。もしもなにかありましたら妻ではなく私にご連絡ください」

渋面を作る透真さんはスーツの胸もとから名刺ケースを取り出し、一枚を百瀬店長に差し出した。

私がプレゼントした名刺ケース、使ってくれてるんだ……。
こんな緊張感のあるときなのに、私は不謹慎にもうれしくて、頬が弛緩するのを感じた。

「べ、弁護士⁉」

名刺を受け取った百瀬店長が素っ頓狂な声を上げる。明らかに狼狽した顔で名刺と透真さんを交互に見つめた。

「行こう、春香」

そのすきに屈んだ透真さんは、私の手を取り、体を支えるようにして立ち上がらせる。

「は、はいっ。百瀬店長、それでは」

手を引かれて半強制的に歩かされながら、私は静止する百瀬店長に一礼した。

ぽかんとする表情で見送られ、カフェを出ると混み合う駅ビル内を縫って歩く。

「あの、透真さん。迎えに来てくださったんですか?」

尋ねた私を横目で見て、透真さんはやれやれといった調子でため息を吐く。

「遅くなると連絡がきて心配だったからな。来てみて正解だったよ」

背中を支えられて歩きながらパーキングに向かうと、停めてあった透真さんの車に乗り込んだ。

「わざわざすみません。ありがとうございます」

助手席に座り、シートベルトを締めてお礼を言うと、透真さんが私の頭をポンとなでた。

「きみがそんなにモテるなんて、油断していた」

ハンドルを握り、緩やかに車を発進させた透真さんは、目線を前方に向けたまま不機嫌そうにつぶやく。

……モテる?私が?

『他店舗で石橋を狙ってたスタッフにはちゃんと真相を説明しといたから! 石橋が急に辞めてショックを受けてた奴ら多かったんだよ』

あの話、聞いてたの……?
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