密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
「さっきの百瀬店長の話でしたらきっと作り話です! 不穏な空気になるのが耐えられなかったんだと思います」

早口でまくし立てると、透真さんは私を一瞥する。
いつもの涼やかな横顔ながら、どこか余裕のないようにも見える。

「お仕事、お忙しいのではないですか?」
「ああ。悪いがきみをマンションに送り届けたらまた事務所に戻る」
「そうですか……。すみません、ご迷惑をかけてしまって」

昨日も帰宅した後、自室で遅くまで仕事をしているようだった。
申し訳なくてうつむいていると、透真さんが穏やかに口を開く。

「きみになら、振り回されたってかまわない。むしろ、もっと一緒にいたかった」

赤信号で車は停車し、それまでハンドルに添えていた右手を宙に浮かせると、透真さんは私の手の甲を握った。

「自分がこんなに独占欲が強いとは思わなかったよ」

持ち上げた手の甲に唇を寄せ、上目遣いの魅惑的な視線で私を射貫く。
突然の色気を伴うぬくもりにドキッとして、耳までカアッと熱くなる。

普通にキスするよりもこそばゆくて、たじろぐ私は目線を落とした。
高鳴る鼓動を鎮めなければ、狭い車内じゃ透真さ
んに聞こえてしまいそう。

もじもじと膝を擦り合わせ、私は窓の外で移り変わる夜景を眺めて、心臓が落ち着くのを待った。



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