密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
6 夢のような未来の話
春風が優しく吹く暖かい日。
高級住宅街を走る車の中で、私は深呼吸をする。透真さんの実家に挨拶に伺うので、朝からずっと緊張していた。

安定期に入り、つわりはだいぶおさまって、お腹が少し目立ってきた。すくすくと成長する証はうれしい。
立ち仕事がキツくなり、カフェのバイトは辞めてしまったので、空いた時間でスタイを縫ったり、腹部をなでて話しかけるのが日課になっている。

透真さんが運転する車が徐々にスピードを緩めると、動悸が激しくなってきた。

ご両親はどんな方なのだろう。
息子と半年も前に勝手に入籍したのに挨拶にも来ない、不躾な嫁だと思われていないかな。
とにかく不安でたまらなかった。

車が敷地内に停車する。
降車して歩き、伝統的な数寄屋門の前に立ったとき、私の緊張はピークに達した。

ここって、旅館じゃないよね……?

日本有数の高級住宅地の中でもこれほど立派な門構えは車中で見受けられなかった。
それに囲まれている敷地は広く、建物は木々に覆われていて、見たことのないスケールの大豪邸だ。

こんなに格式の高い家柄に嫁いだのかと思ったら、場違い過ぎて目眩がしてくる。
不安な気持ちに余計拍車がかかった。

透真さんの後ろをおどおどしながら歩き、玄関の格子戸の前で私は再度深呼吸をする。
すると私のおかしな様子に気づいたのか、透真さんが手をきゅっと握った。

「そんなに硬くならなくても大丈夫だ。うちの両親は、春香に会えるのを楽しみにしているから」

ふっと優しく微笑まれ、岩のように固まった心がほぐされていく。
引き戸が開くと、すぐにご両親に出迎えられた。

「いらっしゃい、春香さん」

とても綺麗で若々しいお母様は、涼しげな目もとや高く伸びる美しい鼻梁が透真さんとよく似ている。

「こんにちは、春香さん。お待ちしてましたよ」

お父様はさすが大会社のトップに立つ方だけあって、精悍な顔つきと、きっちりセットされた白髪交じりの髪、それに和装を着こなす佇まいにも貫禄があった。
< 71 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop