魔法使いは透明人間になりたい


 カランと、氷が溶けてぶつかり合う音がした。
 カフェの店内には西日が差し込み始め、あたたかい色に照らしていく。青とピンクのクリームソーダは、トッピングのバニラアイスが溶けて白っぽいパステルカラーに色を変えていた。

 アスレチックでMerakを見てからというものの、佑の口数は少なくなった。時折どこか遠い目をして、窓の外を眺めている。遠くに見えるひまわりを見ているのかと思ったけれど、それはおそらくちがう。

 佑は、過去の記憶を見ているようだった。
 あのメンバーたちと共に切磋琢磨しあい、支え合い、乗り越えてきた日々のことを。

 ストローで混ぜながらクリームソーダを飲む。駄菓子みたいなチープな甘さと少し抜けた炭酸の味に、遠くでストローの紙の味が混ざり合う。もう紙のストローは長時間水分にさらされたせいで、ふにゃっとしていた。

 何を話せばいいのだろう。
 様子を伺いながら、することもないからクリームソーダを飲むしかない。でも佑の方はあまり減っておらず、アイスばかりが溶けていく。

 楽しかったね。
 綺麗だったね。

 そんな感想は、メンバーを見た瞬間から消えていた。楽しかったし綺麗だったのだけれど、それを上回る衝撃のせいで、なにを言ってもだめな気がした。

 佑はじっと耐えている。考えている。
 それがわかったから、不要な口は出したくなかった。

 クリームソーダを飲む。そのまま飲んでいると、ズズ、と音がした。もう全部飲み切ってしまった。

 どうしよう、やることがない。
 佑と同じように外を見るか。でもそれも。
 じゃあスマホをいじる? いや、それは良くない。

 あれこれと迷っていると、佑がグラスを持ち上げてクリームソーダを飲み始めた。みるみるうちに減っていき、グラスは空になる。

「……行こっか」

 佑は微笑んでそう言った。
 そうして、わたしたちはカフェから出た。

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