魔法使いは透明人間になりたい
まだまだ夏とはいえ暦上は秋だからか、日が落ちるのが盛夏よりも早くなっていた。ゆっくりと時間をかけて夏は終わろうとしている。ツクツクボウシの鳴き声を聞くともなく聞きながら、車へと戻る。車内は熱い空気がこもっていた。
エアコンを効かせる間、やっぱりわたしたちは一言も話さなかった。佑が話そうとしないなら、無理して話さない。いろいろと思うところもあっただろうから。
「……ひまわり、綺麗だったね」
それでも、口火を切ったのは佑だった。ごうごうと唸るエアコンはやっと冷たい空気を吐き出し始めた。
「みんなが見に行くわけだね」
「うん」
だいぶ冷えてきて、エアコンを少し弱めると車は動き出した。ウインカーの音を聞きながら、外を眺める。山の稜線の空は黄色を含んだ色に変わり始め、1日が終わりを告げようとしている。時間が経つのは早すぎて、あっという間だった。
「これからどうする?」
わたしが問いかけると、佑は顎に手をやって「んー」と唸る。信号が赤になり、緩やかに車は止まる。
「あ、海行かない?」
「海?」
「そう。それで、花火しよう」
「わ、いいね!」
花火大会は色々ありすぎて、花火を楽しむどころじゃなくなってしまった。打ち上げではないけれど、手持ちでも十分楽しめる。手持ち花火も久しぶりにやる。
今年の夏は、なんだかんだ最近では一番楽しい夏かもしれない。