序列100位のシンデレラ〜冷徹御曹司と、嫁入りから始まる恋をする〜
「椿さん……ありがとうございます」

 それから二人で、玄関の前に水を撒いて、塀や扉の泥汚れを落としたり、草むしりをするなど掃除をした。椿のしなやかで綺麗な指先が雑巾を絞る様子を見ながら、何度もやはり大丈夫ですと、止めたい衝動に穂波は駆られた。

「ところで椿さんは、なぜこんなにも早くにいらっしゃったんでしょうか? 私たち、二人して約束よりも数時間前に集まって、掃除をしている不思議な人たちです」

 本当にそうだなと椿は苦笑し、不安だったんだと小さく呟いた。

「もしかしたら穂波さんが来てくれないかもしれない。そんな気持ちになったら、目が覚めてしまった」

 意外だった。自信に溢れていて、この前の藤堂家でのやりとりの時も、顔色一つ変えなかった椿だ。不安なんて感情と縁がないのかと思っていた。

「人間関係でも仕事でも、こんな不安な気持ちを覚えたことはない。あんたが関わる時だけなんだ、この気持ちになるのは」

 格好がつかなくてすまんと、少し恥ずかしそうにする椿の横顔を見ると、胸の奥が痛くなる。椿を知りたい、好きになりたいとは思っていたが……支えたいという思いも芽生え始めたことに、穂波は気づいた。

 氷宮家の嫁になるかもしれない。すなわち一番近くで当主を支える存在だ。穂波は、白洲家を出る最後の最後に、この感情を持てて良かったと強く思った。

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