序列100位のシンデレラ〜冷徹御曹司と、嫁入りから始まる恋をする〜
 いつか自分も、椿を母に会わせられる日が来るのだろうか? もしこの先、この婚約生活のうちに椿を本当に好きになって、ずっと一緒に居る未来を迎えるなら。そんな日が訪れるかもしれない。

(そんな未来が来ると良いな)

 穂波は静かに、心の中で願った。





 氷宮家の一族が住む敷地は、公共施設や、企業の入った建物が立ち並ぶ中央区から、少し外れた場所にある。貴族や大企業の重役たちの屋敷がひしめくこの高級住宅地の中でも、圧倒的な広い敷地を持っていた。

 黒褐色の門扉がずしりと構える、氷宮家の敷地の入り口で、穂波は圧倒される思いだった。

 門扉の横には太い墨字で、氷宮と書かれた縦に長い表札がかかっている。こんな大きな表札、見たことがない。扉の上部には、龍や鳥などの木彫り細工が施されており、荘厳な雰囲気を醸し出している。

 藤堂の家と違い、この扉の奥に一族全員が住んでいるなんて。扉を目の前にしても未だ信じられない。

「椿様、お帰りなさいませ」

 門扉の横にある住人用の扉が開くと、黒い燕尾服を着た、すらっとした男性が立っていた。柿渋色の七三に分けた髪を後ろに撫で付けてまとめている。歳は椿よりも上に見える。三十代半ばぐらいだろうか。

「あなたが穂波様ですね。ようやくお目にかかれました」

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