序列100位のシンデレラ〜冷徹御曹司と、嫁入りから始まる恋をする〜
 依頼人の家は一階建ての古い家屋だった。居間に、夫婦のそれぞれの部屋と、共に眠る寝室がある。二人で住むには十分な家だ。

 まず案内されたのはいなくなった女性の部屋だった。特段、一目見た印象では変わった点はなく、ごく普通の女性の部屋だった。畳の敷かれた六畳ほどの和室に、机や化粧台が置いてある。

「こちらが妻の部屋です。他にも見たい部屋があれば案内しますので……どうか、お願いします」

 依頼人は部屋の前に座って手をつくと、床に額がつきそうなほど深々頭を下げた。

「やってみます」

 穂波は部屋にある、依頼人の妻の私物に触れてみることにした。よく持ち歩いていた物の方が思念が残っている場合が多い。化粧台の上に置いてある、黒いかんざしなんかどうだろうか。

「!」

 予想は的中した。かんざしに触れた途端、記憶が流れ込んでくる。

 先日、時隆が殺される思念を視たばかりだったこともあり以前よりも、思念を視ることに恐怖していた。まるで崖から海に飛び降りるような覚悟で、穂波は目を瞑った。

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