序列100位のシンデレラ〜冷徹御曹司と、嫁入りから始まる恋をする〜
 涼葉の言葉に答えられない。景色も音も、特徴が見つけられなかった。無機質な鋼の壁で覆われた倉庫に、木箱が積まれていただけだった。

「ご、ごめんなさい……これ以上は何も」
「じゃあ台所の床下を探す。そこにあった何かが盗まれたんでしょう? 依頼人! 盗難された物の場所がわかった」

 涼葉は依頼人を呼び戻すと、台所の床下を探し始めた。穂波も思念を探りながら床下に触れて行く。





『あったあった! いやあ、今回も簡単な依頼だったねえ』

 台所の床板が、一枚だけ取り外し可能になっていた。その下から筒状の……巻物だろうか。後輩の男が回収していく。しかしそれ以上の情報は、この思念からはもう読み取れない。






「……」

 どうしよう。せっかくここまで突き止めたのに。椎名を助けられない。涼葉にもやはり役に立たたずだと見捨てられてしまうかもしれない。椿の姿が頭によぎって、悔しさや不甲斐なさに目の奥がほんのり熱くなった。

 思わず、俯いた時。がらりと玄関扉の開く音がした。

「!? 誰だ」

 涼葉が持ってきていた薙刀を咄嗟に構える。

「玄関扉を開けておくとは不用心すぎる。初歩的なこともできないのか。よくそれで先日、氷宮の仕事について語れたものだ」
「つ、椿」
「勝手に俺の婚約者を連れ出して、何をやっている」

 入ってきたのは、これ以上ないぐらい不機嫌そうな椿と、微笑を浮かべている平常通りの花森だった。

< 186 / 295 >

この作品をシェア

pagetop