序列100位のシンデレラ〜冷徹御曹司と、嫁入りから始まる恋をする〜


「つ、椿って、氷宮椿様ですか? 現当主の」

 依頼人はいきなりの氷宮家当主の登場に、肩を震わせながら、腰を低くしてしまった。椿が担当するのは、企業の社長や貴族など要人からの依頼が多い。今回のような、一般家庭の人間からの依頼はほぼ受けていない。本来、ここに来るわけがない立場なのだ。

「この依頼は俺が引き取る」
「あの椿様が……!?」

 何が起きたんだと、未だ事態の読み込めない依頼人は、ひゅっと喉を鳴らす。

「穂波さん、すまない。涼葉に振り回され大変だったろう。ここからは俺が受け持つ。花森と涼葉と一緒に屋敷に帰っていてくれ」

 椿は穂波の肩に手を置くと、優しく、諭すような口調でそう告げた。ここから手詰まりでどうしようかと悩んでいた依頼も、椿がそう言うだけで解決に向かうのではないかと。一瞬で安堵してしまった。

 氷宮の仕事に少し関わっただけでわかった。経験、能力、思慮深さ、威厳、未来を視ることのできる念力。きっと全てが椿は群を抜いている。だから一族の当主になれたのだ。

 そんな椿の横においそれと立つ穂波を、涼葉は認められなかったのだということも、頭ではわかっていたが体験を通じてより理解した。

「……わがままを言っているのは百も承知なのですが、この依頼、最後まで引き受けさせていただくことはできないでしょうか」

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